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〈ALWAYS-10〉 [ALWAYS]

並んで座る。

梅が咲いて、桃のつぼみが膨らんで、赤い毛氈の段々に、ひな人形を並べる。お内裏様とおひな様が並んで座れば、それがひな祭りの始まりの合図です。五人ばやしの笛太鼓に誘われて、日本列島に暖かな春風が吹き始めました。1990年。映画『夢』で、世界のクロサワは、ひな壇に見立てた桃畑で、おひな様とお内裏様をはじめ、三人官女も右大臣も、桃の花吹雪の中で優雅に舞わせました。映像詩です。しかし、できれば、お内裏様とおひな様には、並んで座って、微笑んでいて欲しかったのですが…。

〈並んで座る〉映画と云えば、小津安二郎ということになっています。何故だと訊かれても困ります。富士が日本一の山であるように、決まりなのです。小津映画では、多くの人々が並んで座ったり、並んで歩いたり、そして向き合っても座りますが、彼が戦前に撮ったサイレント映画『生まれてはみたけれど』(1932)でも、一平君や淳之介と同じ年頃の小学生が、並んで座りました。

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東京郊外に引っ越して来た、サラリーマン一家の小学生の兄弟。近所の腕白小僧たちと、さっそく友達になりますが、その中に父親が勤める会社の、社長の子供もいます。子供の世界では、腕白大将と家来の関係は無邪気なものですが、ある時、兄弟は、ぺこぺこと、社長に頭を下げる父親を見てしまいます。ショックです。一番偉いと思っていた父親に裏切られた兄弟は、父親に反抗して暴れたあげくに……翌朝、朝食を拒否して庭でハンガーストライキ。両親に背を向けて、並んで椅子に座った子供たちに、母親はおむすびを差し出しながら『お前たち、大きくなって、お父ちゃんより偉くなればいいじゃないの。』と、子供たちをなだめます。仲直りした父と子の三人が、並んでおむすびを食べるシーンは、感動的です。目頭が熱くなります。

壊れたリヤカー?の上に、並んで座って、おむすびではなく、さつまいもを食べたのが、ALWAYSの一平君と淳之介です。高円寺にいるらしい母親のことで、淳之介は一平君に相談し、ひとつのさつまいもを、二人で分けて食べるという場面です。また、帰りの電車賃に困り、雨にうたれながらも、やはり二人は並んで座りました。親友なのです。顔を合わせれば悪態をつく間柄の、鈴木オートと茶川さんも、子供たちと同じように、並んで座りました。こちらはお金の貸し借りです。困ったときに、助け合うのが親友です。親友は並んで座るのです。

もうすっかり鈴木家の一員になったと思っていた六ちゃんですが、並んで座った鈴木ファミリーと、一人で〈向き合って座って〉います。これは心配です。六ちゃんは、青森には帰らないと往復切符を差し出します。やっぱり、人が向き合って座ると、何か緊迫した事態が起こります。しかし、泣きながら部屋に戻った六ちゃんを追って、二階に上がって来たトモエさんは、青森からの手紙を差し出し、泣きながら読んでいる六ちゃんの肩を抱いて、並んで座ってくれました。

もうすぐ桜の季節です。就職試験や子供の入学を審査する面接では、互いに向き合って座り、相手を観察します。緊張の場面です。お見合いでも、当事者とその家族も向き合って座ります。探り合いです。しかし、同僚や、同じクラスメートや、恋人同士になったら、机を並べて勉強したり、公園のベンチに並んで座ります。だから映画では、人が並んで座るのか、向き合って座るのかに敏感です。それだけで、人と人との関係が表現出来るのです。世界のクロサワではなく、日本の小津安二郎は、そのことに世界一敏感でした。そして幸いなことに、ALWAYSを作った人々も…。

先日のエキストラ募集に応募された方々の、興奮した報告が寄せられていますが、映画館のシーンだったようですね。テストを繰り返し、本番では緊張されたのではないでしょうか。でも、肩を寄せ合い、映画館の席に〈並んで座って〉映画に参加したからには、仲間というか、同士というか、みなさんは、もう、すっかり三丁目の住人になってしまったのでしょう。11月の続・三丁目の夕日が楽しみです。

東京物語 - 小津安二郎

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ALWAYS-9 [ALWAYS]

自己紹介

『観てから読むか、読んでから観るか、それが問題だ。』ハリーポッターのことでしょうか。ダビンチコードのことでしょうか。いいえ、ALWAYSの話です。私は西岸良平さんの漫画を読んでから、ALWAYSを観たわけではないのに、短気でおっちょこちょいの鈴木オートのことも、新しいモノ好きのキンさんのことも、すっかり解ったような気でいます。オリジナルには手が加わっているはずですが、西岸さんもいい映画になったと喜んでいる様子なので大丈夫です。映画は映画です。予備知識のない人にも映画は約2時間で、三丁目の昭和33年を伝えなければいけません。

去年の3月でしたか、Eric and Victoria Chanさんが飛行機の中で本作を観て、売れない作家、田舎から都会に出て来た娘のことなどについて、共感し感激した様子を、このMBに投稿してくれました。外国人は西岸さんの漫画を読んでないはずだし、1958年当時の日本の事情に詳しくもないでしょう。それでも2時間であの頃の日本人を理解してくれたのです。映画だけを手がかりに…。

自己紹介もなしに、葉巻をくわえて、よれよれのコートを着た男が、事件の現場をうろついています。不審者です。だれ?と問われて警察バッジを見せれば、みんな一応は安心しますが、彼がどんな警部補なのか警察バッジは教えてくれません。『ちょっといいですか。どうして、映画には無駄なカットがひとつもないんでしょう?』と、刑事コロンボは質問しませんでしたが、彼なら三丁目の住人の中から犯人。いや、住人の経歴から性格までを、見事に言い当ててくれるでしょう。

『はんずめますてぇ』と三丁目に登場した六ちゃん。コロンボ警部補なら、どんな風に六ちゃんを観察するのでしょうか。東北弁、セーラー服、リンゴのお土産、六子と云う名前、赤いほっぺ…。堀北真希さんのプロフィールには、1986年10月6日生、血液型-B、身長160cm、特技はピアノ…。と書いてあります。しかし、映画の中の六ちゃんについては、わざわざ字幕やナレーションで紹介している時間はありません。六ちゃんは履歴書を提出しているにもかかわらず、鈴木オートは〈動〉と〈転〉を、読み違えるありさまですし。履歴書を読んでも、六ちゃんのことは分からないのです。『ロシア文学も読んだことがないくせに。』と、カラ元気の茶川さん。ぼさぼさの髪、毛玉だらけのセーター、腰の手ぬぐい、下駄ばき、タバコの吸い殻でいっぱいの灰皿…。すでにコロンボ警部補の手帳はメモでいっぱいです。私たちは多くの登場人物と初対面なのに、映画では誰も登場人物を紹介してはくれません。にもかかわらず、映画は“手がかり”であふれています。

コロンボ警部補の真似をして、私たちが観察している三丁目の住人は、住人同士でも互いを観察しています。宅間先生が帰った後、居残った飲み仲間の男たちはヒロミさんに『防空壕に向かう途中で…』と宅間先生の一人暮らしの理由を教えていますし、茶川さんが帰った後では、『事業たって駄菓子屋だよ』と、ヒロミさんに茶川さんの真相を“紹介”します。しかし、なかなか他人のことは解りません。宅間先生の〈た〉を〈あ〉に置き換えて、悪魔だと六ちゃんに耳打ちした、一平君の情報は的を得た“紹介”でした。

コーラを飲み、ロカビリーを聴き、アロハシャツ姿でサイクリングをするキンさんは、六ちゃんの訛りに『お国の言葉は大事にするもんだ。』と言います。彼女も何処かに“故郷”があって、しかもその故郷にも過去にも、別れを告げて生きているのでしょう。キンさんは六ちゃんに、自分の姿を見ているようです。汚れたお茶碗を見て茶川さんの暮らしぶりを素早く観察した淳之介の父親。その父親が差し出した名刺を見ただけでは、本人のことは解りませんが。秘書がさっと火をつける葉巻や、高級車や、名刺を『こういう者です』と差し出しす行為にはそれなりの人柄が現れていて、淳之介はそんな実の父親を、しっかり観察していました。

『人を見かけで判断するな』とよく云われますが、映画では見かけや、仕草や、行為や、言葉などを総動員して“自己紹介”します。そして自己紹介しつつ物語も進行します。私たちが映画の登場人物を観察し、登場人物同士もまた観察しそして行動する。見終わった観客の私たちも、その観察結果を誰かに伝えたい、と行動を起こします。『面白かったね』とか『退屈だった』など、2分で会話が終わってしまう映画は、どちらも残念な映画です。いい映画は頭のてっぺんから尻尾の先まで、ぎっしり餡が詰まっています。2時間の映画を見終わったら、タイ焼きとお茶をいただきながら、その映画について少なくとも2時間は、お友達とおしゃべりできるような映画でなければ…。私たちはALWAYSについて一年以上もおしゃべりしています。しかし、あまり長くなりすぎてもいけません。

coronb.jpgコロンボ警部補は帰り際に『あと、もうひとつだけ…』といつものように質問します。『ウチのかみさんが言ってました。私のような外国人にも、原作を読んでいない者にも、無駄なく登場人物を紹介しつつ、物語を物語った映画は、結局は、その映画の作り手自身を一番よく“自己紹介”しているのではないのか?ってね。ALWAYSをよーく観察した人は、会ったことがなくても、名刺の交換をしてなくても、履歴書を見てなくても、プロフィールを読まなくても、ALWAYSを作った犯人がどういう人たちなのか、映画の中に証拠がたくさん残っていますからね。

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